ACSP 一般社団法人コンピュータ教育振興協会

3Dプリンターによるものづくりの先輩に聞く

vol.1 伊藤 滋啓さん

2021.2.19

3Dプリンター、3DCAD、Webによる小さなものづくりを仕事にしていきたいとの思いから、フリーとして活動を始められた伊藤滋啓さん。伊藤さんに3Dプリンターの面白さや難しさについてお話しを伺いました。


―この度はインタビューへご協力いただきありがとうございます。はじめに、現在の伊藤さんのお仕事をご紹介していただけますか。

伊藤さん: 今は、飲食や雑貨店など、個人でお店をされている方に向けて、Web制作や3Dプリンターによるロゴの立体化などの一点ものを提案し制作する仕事をフリーでしています。

伊藤 滋啓さん
伊藤 滋啓さん

―フリーでのお仕事は長いのでしょうか?

伊藤さん: いえ、正直なところフリーランスとしてはまだかけだしです。卒業後に設計を受託している企業に入社し、自動車メーカーで設計の仕事を6年半ほどしていました。一度海外で自分を試してみたいと、2年前に語学留学をしていたところ、このコロナ禍になり…。留学先がロックダウンになってしまい、やむなく2020年の春に帰国したのです。留学中に、英語とプログラミングは親和性が高いと考えてWeb制作の勉強を始め、帰国後に職業訓練校で本格的にプログラミングを勉強しました。

―そうでしたか。大変でしたね。CADや3Dプリンターは設計のお仕事をされていた時に習得されたのでしょうか?

伊藤さん: はい、前職ではCADソフトはCATIAを使っていました。3Dプリンターについては制作専門の部署があり、私はデータを描いて、光造形なのかFDM*で積層するのかを選択して依頼する立場で、3Dプリンターは便利だなと思っていました。
*3Dプリンターの造形方法の名称。光造形は樹脂に光を当て、選択的に硬化させて積層していく方法。FDMは材料をノズルから押し出すことで立体モデルを造形する方法。

―それではモデリングは、CATIAでされていたのですか?

伊藤さん: そうです。今は個人向けのFusion360を使っています。3Dプリンターは、友人や外部サービスに委託して造形しています。

―CADソフトをCATIAからFusion360へ変更されて、簡単に対応できるものなのでしょうか?

伊藤さん: いえ、だいぶ違いますね。テキストを3冊ほど勉強して、それでもまだスラスラできません。


リバースエンジニアリングしてつくったビー玉のおもちゃ

前職での3Dデータの形状モデルはソリッド*だったのですが、今はソリッドもありますがサーフェース*で曲面を描くので、その違いでも苦戦しています。

Webで見たおもちゃをリバースエンジニアリングした勉強などもしています。例えばSNSでみかけて面白いと思ったビー玉を使ったおもちゃです。ビー玉は直径17mmなので、そこからこんな感じかなと考えてFusion360で設計図を描き3Dプリンターで造形しました。 *3Dデータの形状を表現するモデル。ソリッドは、稜線、面の情報に加えて、立体の実体が面のどちら側に存在するかの情報も保持し、形状をあいまいさなく一意に記述表現したモデル。サーフェースは、頂点と頂点を結ぶ稜線と面(シート)で形状が表現されているモデル。

―面白いおもちゃですね。時間はどのくらいかかったのですか?

伊藤さん: 勉強しながらだったので、設計に8時間くらいかかりました。曲面の螺旋になっているところが難しくて。ソリッドではなくサーフェースだったので、この箇所で何時間か詰まりました。プリンターは友人が持っているダビンチProで4、5時間かかりました。


Fusion360によるデータ作成

―意外と早いのですね。3Dプリンターを使っていて難しいなと思われることはありますか?

伊藤さん: 以前つくったもので、肉厚が薄すぎてすぐ折れたということがありました。手のひらサイズくらいの小さなものだったのですが、コストを下げようと中の充填率を下げたら、結局ボキッと折れてしまってつくり直しになりました

また、積層ピッチの違いも、まだ理解しきれていません。3Dプリンターで造形する時に、積層ピッチをコンマ何ミリにするなどと設定していきます。細かくすればしただけ綺麗ですが、時間もかかりますし電気代とかのコストもかかります。

これらは、経験を重ねてノウハウを積みあげていく分野だと思っています。 今は3Dプリンターを持っている友人やDMM.makeさんに造形を依頼していますが、人に頼んでいるとノウハウが溜まらないので、現在3Dプリンターの購入を考えています。

―3Dプリンターの面白い、楽しいところはどんなところでしょう?

伊藤さん: やはり、自分で設計したものが早ければ数時後、または翌日には、自分の手に取れることが大きいと思います。出来上がると嬉しいです。とにかく早く実験をやる必要があるような時にもものすごく助かりました。画面上で実寸ですと言っても、見られる、触れる、実際に手に取れることに比べるとまだまだ敵わないと思います。

―今後も3Dプリンターに関わっていきたいというお気持ちが強いのですね。

伊藤さん: そうでうね。ものづくりに関わっていたいと考えていて、3Dプリンターは個人単位でものづくりに関われるという点がすごいと思っています。
これまでは工場が絡まないとできなかったものを、個人単位でつくれるということは楽しいです。今までになかったものなのだと思います。
Web制作は多くの人がやっていますが、それに比べて3DCADや3Dプリンターを使える人は少ないので、それを活かして小さなものづくりを仕事にしていきたいと考えています。

―また海外にチャレンジされるのでしょうか?

伊藤さん: はい。海外で自分を試したいと思い、海外留学していたその道半ばにコロナで帰ってきたので、コロナの情勢が収まったあとに、再び外でチャレンジしたいと思います。
その時にご飯を食べられるように、今は、Web、CAD、3Dプリンターについて、個人単位でできることに時間をかけたいと思っています。まず勉強し、経験を積んで国内でこれらの技術を活かして仕事をしていきたいと考えています。

―最後に3Dプリンター活用技術試験についてお聞かせください。

伊藤さん:CADの技術があり、個人で形がつくれる手立てがないのかと考えている時に、3Dプリンターにたどり着きました。3Dプリンターについては、積層、また液体に光を当てて造形するということは知っていたが、それ以上のことは何も知らなかったので、理解を深めたいと。また、当時通っていた職業訓練校で、資格を取ることを奨励していたので受験を決めました。
勉強を通して、3Dプリンターに関する知識が深まり、特に主要な7つの造形方法に関する基礎知識を理解することができました。

       

コロナ禍は多くの人に影響を及ぼしていることを改めて認識しました。このような状況下でもご自身が今やるべきことを見定めて積極的に取り組まれている伊藤さん。3DプリンターやCADについて楽しそうに話されているのが印象的でした。1日も早く海外へチャレンジできる日がくるようにお祈りしています。