vol.12 東 瑞記さん
めったに使われないけれど、私たちの生活を守ってくれているものの一つに防災システムがあります。今回は、その防災企業で開発をされている東瑞記さんに、CADにまつわるお仕事についてインタビューしました。
―お忙しいところご協力ありがとうございます。早速ですが、現在、東さんがお勤めの会社と、そこでどのような仕事をされているのかを教えてください。
東さん:私は防災メーカーに勤めており、その中で新しい防災機器の開発を行っています。
東 瑞記さん
―防災機器というと、具体的にはどのようなものなのでしょう?
東さん:防災と一口に言ってもいろいろありますが、主に消火に携わるものを開発しています。一般の方の目に触れるものだと消火器ですが、建物全体の消火設備も手がけています。例えば、オフィス・商業施設のスプリンクラー、また駐車場や危険物を貯蔵している施設の消火設備もあります。油の火災では水ではなく泡の薬剤を放射して消火する設備、また二酸化炭素や窒素など、酸素の濃度を低くする不活性ガス等を用いたものも設計します。
建物の消火設備全体が対象なので、例えば薬剤を貯蔵するためのタンク。薬剤は原液で貯蔵してあり、消火用水をポンプで引き上げて所定の濃度に混合して最終的にノズルなどから放射するのですが、その混合するための装置やノズル。さらにその配管の途中にある弁など、いろんなものを開発、設計しています。
―広範囲に設計されるのですね。そこでCADを使われているのですね。
東さん:はい、多岐にわたったものを開発しています。CADで設計し、外部委託または3Dプリンターで試作品を作り検証という、トライアンドエラーを繰り返し、法令等で定められている消火設備の性能に準じるように開発し製品化していきます。
また、技術は発展していくので、例えば電気自動車が従来のガソリン車の火災には当てはまらないように、法令に従うだけではなく、新しいものには新しい消火システム・装置を考えていくことも開発業務の一つです。
―専門性の深いお仕事ですね。もともとのご専攻が機械設計だったのでしょうか?CADも使われていたのですか?
東さん:大学院の専攻は生物工学だったのですが、企業の方から説明を受けて面白そうだと思い入社を決めました。入社して初めて機械的な知識や、消火設備がどのようなものかを勉強し、CADもそこから触り始めました。
CADを使い始めて、実際に自分の描いた試作ができてくると、特に初めての時には感慨深いものがありました。当然、最初は性能が上手く出ませんが、自分の思った通りに組み立て、思った通りの性能が出て、そうなってくるとすごく楽しいな、と思います。自分が小さい頃に、プラモデルやレゴブロックを組み立てるのが好きだったな、と思い出したりしますね。今、とても楽しく仕事をしています。
―仕事では2次元と3次元 CADの両方を使われているのですか?
東さん:入社してしばらくは2次元ばかりを使っていました。たまに、2次元CADで描くよりも3次元CADで描く方が簡単な構造の設計があり、その時には3次元CADを使っていました。2017年からは、3Dプリンターの運用担当になり、3次元CADを頻繁に使っています。
―3Dプリンターも使われているのですね。CADの面白さや使って良かったことは何でしょうか?
東さん:3次元CADを使えると3Dプリンターに携わっていけるのが面白いです。3Dプリンターは進化し続けているので、最先端の技術を使った面白い業務に関われます。また3次元データは流体シミュレーションができるのも良いですね。
3次元CADができると仕事の幅が広がり、効率的に仕事ができるようになるのが良いと思います。
―お話を伺っていると何でも簡単に使いこなされるようですが、難しかったこともあるのでしょうか?
東さん:3次元CADを扱い始めて最初のころは、頭の中に設計ができているのに、CADの機能を上手く使えなくて、なかなか描けないと思っていたことはありました。
―今ではすぐに描ける感じですか?
東さん:いえ、今でもまだまだだと思うことがあり、それが3次元CAD利用技術者試験を受けようと思った理由の一つです。自分ではそれなりに使えてきたと思っていますが、本当に有効に活用できているのかと。非効率な方法で2次元や3次元の図面を描いているのではないかと思う事があります。実際、ネットで調べると便利なショートカットキーがあったり、いろいろと出てくるんですよね。資格は系統立てて学習できるのではないかと思い試験を受けました。
―試験を受けてみていかがでしたか?
東さん:2級は、業務でソフトウェアを使うだけでは考えない新しい知識を得られました。特に3次元のデータ形式や方式など、今後仕事で取り扱うかもしれない内容も多く良かったです。
実技は、自分の実力を客観的に知る良い機会になりました。これまで使わなかった機能を新たに知ることができ、今後に活かせると思います。また試験のレベルを体感できたので、今後後輩ができたときにアドバイスができるかな、と思います。
東さんが開発された駐車場の防火設備(イメージ図)
―試験の内容がお役に立てたようで嬉しいです。今まで多岐に渡って開発をされてこられましたが、その中で特に印象に残っているものはありますか?
東さん:これまで一番専門にしてきたのは泡の消火設備なのですが、その中でも駐車場の消火装置が大変でした。泡消火薬剤は発泡させて放射するのですが、この開発では泡の分布密度を調整していくのが非常に難しかったですね。トライアンドエラーを年単位で行い出来あがりました。
この設備を最初に設置した物件は有名な大きな建物の駐車場です。自分で作りあげたものが、人目に触れるわけではないのですが、大勢の人の命を救う可能性のあるものだと考えると誇らしい気持ちになりますし、会社に貢献できたという自負もあります。苦労して開発した甲斐があったと思います。
―日常生活では意識しませんが、私たちの生活を守ってくれる重要な設備ですよね。最後に、今後、やってみたいことなどありましたら教えてください。
東さん:3次元CADに関連したことで言うと、3次元設計の能力を磨いていきたいと思っています。今は、3Dプリンターによる製品の製造はコストが高く、航空や医療など一部の業界の一品ものに使われることが多いようですが、3Dプリンターが一般的に浸透していき、我々中小企業でもそこそこのコストで製品を作れるような時代がいずれくるのではないかと思っています。
そのような、現在の加工技術にとらわれない自由な設計ができるようになった時に、3次元CAD、3Dプリンターの経験を活かした3次元ならではの構造を設計したいと。その時に今やっていることにいろんな意味が出てくるのだろうと考えています。
本稿ではご紹介できませんでしたが、消防設備について素人の私に丁寧にご説明いただき理解を深めることができました。また、ご自身が作られた設備は使われないのが一番、縁の下の力持ち的な存在です、と語られていた東さん。こういうお仕事に支えられて、私たちは安全に、安心して生活できるのだと改めて思いました。ありがとうございます。そして、インタビューへのご協力もありがとうございました。