ACSP 一般社団法人コンピュータ教育振興協会

学校訪問レポート

vol.3 麻生建築&デザイン専門学校

2024.11.21

【はじめに】

はじめに
ASO Learning Lab室にて
左:稲吉先生 右:今泉校長代行

ASOの最大の強み。それは、単に就職が決まるだけではなく、学生一人ひとりの「夢」を実現できる業界に就職できることです。
80年の歴史と実績を持つ「麻生専門学校グループ」。
今回は、その中でも麻生建築&デザイン専門学校の今泉清太校長代行と、クリエイティブデザイン学科プロダクトデザイン専攻の教務部副主任である稲吉貴博先生に、同校の理念や取り組みについてお話を伺いました。


【専門性を高めるとともに、人間性・人格の成長を図ります】

ACSP: まずはじめに、御校の教育理念を含め、学校全体について教えていただけますか?

今泉清太校長代行: 麻生専門学校グループは、1939年(昭和14年)の創立以来、優れた産業人を数多く輩出してきました。私たちは、社会の変化に対応できる良識と高度な専門技術・知識を持ち、常に挑戦する意欲に満ちた専門職を育成し、即戦力として社会に送り出すことで、社会に貢献することを目指しています。
高度な専門知識や技術はもちろん、それらを最大限に発揮するための「人間力」を高める独自の教育プログラムを全校で推進しています。これにより、専門性だけでなく、思いやりや自立心を兼ね備えた人材の育成にも力を注いでいます。


【早めの意識付けと具体的な努力目標を設定】

努力目標設定
就職指導(就職担当:左から井口先生・学生2名・稲吉先生)

ACSP: 「就職のASO」とも呼ばれる圧倒的な就職実績を誇る御校では、学生が社会人となるためにどのような取り組みを行っているのでしょうか?

稲吉先生:

就職指導は、就職グループとクラス担任が連携して取り組んでいます。 就職活動前には研修(就職推進週間)を行い、早期から学生に就職への意識を高めるよう努めています。また、入学直後に面談を実施し、具体的な会社や業界に目標を持つ学生には、その目標達成に向けた具体的なプロセス(努力目標)を伝えています。






【企業、団体・行政機関と連携した教育活動】

ACSP: 御校は、学生のみならず社会人も参加するコンテストで数々の受賞歴を誇っています。国内だけでなく国際コンテストでも素晴らしい成果を挙げており、企業、団体、行政機関と連携した教育活動を展開されています。その一環として、「ASOラーニング・ラボ」や「GROWTH」というサークルも運営されています。今回は特に、「ASOラーニング・ラボ」についてお伺いできますでしょうか?

教育活動
2019年開設当初集合写真

稲吉先生: 「ASOラーニング・ラボ(ASO Learning Lab)」は、2019年にフランスのダッソー・システムズと共同で麻生建築&デザイン専門学校内に開設されたラボです。同社が提唱する「Workforce of the Future(未来の働き方)」というコンセプトに基づいて、各国で展開されていますが、国内では初の設置となります。


「ASOラーニング・ラボ」では、3次元CAD「CATIA 3DEXPERIENCE」、3Dプリンター(積層型・光造形型)、VRシミュレーション、CAE(流体解析・応力解析)といった最先端の設備を完備しており、これらを活用して次世代の技術に対応できる学生の育成を目指しています。

教育活動
VRシミュレーション中  ※写真真ん中、右はバイクにまたがって確認中

ASO Learning Lab活動作品(卒業制作)
プロダクトデザイン制作展 久留米市美術館(2024年2月)
教育活動
各学生が3次元CADを用いて設計し、3Dプリンターや3次元スキャナーを用いて作成しています。
※ギター(写真左上):3次元CADで設計し、ボディ部分は3Dプリンター出力
※下駄 (写真右上):3次元スキャナーを用いて足の形を読み取り、自分の足にフィットするように3次元CADで設計し作成
※ブラシ(写真左下):3次元CADで設計し、3Dプリンターで出力して作成
※全体図(写真右下):当日までの展示会場とのやりとりから備品の手配まで。全て学生主体で準備


【まずは学生が「やりたい!」と思ったことにチャレンジできる環境整備。その結果…】

ACSP: すごい設備ですね。これほど充実した設備が整っていると、学校側としては学生にたくさん活用してほしいと考えるのが普通だと思いますが、先生方は学生に積極的な利用を促しているのでしょうか?

稲吉先生: 環境整備については、学校の基本方針として企業から求められる人材育成を掲げており、即戦力として必要な機材の導入をしています。

環境整備
週1回の報告会風景(2024年10月)
私たちがまず行うべきことは、学生が「やりたい!」と思ったことに自由にチャレンジできる環境を提供することだと考えています。学生には、学生のうちにたくさんのチャレンジをし、トライ&エラーを経験して成長してもらいたいと思っています。とは言え、ラーニングラボの活用については学生の自主性に任せており、設備は自由に使用できるよう整備していますが、利用するかどうかは学生自身の判断に委ねています。
環境整備
Lab室後方風景(2024年10月)
ラボを利用している学生には、週に一度、私やサークルメンバーに向けて活動報告を行う場を設けています。成功体験だけでなく、失敗体験も報告してもらい、「なぜ失敗したのか」「どうすれば改善できるのか」を考える力を育むことを目指しています。また、発表の場を設けることで、情報共有の重要性を学生自身が実感することも目的の一つです。なお、この発表の場を活用するかどうかも、学生の自主性に任せています。



環境整備
長時間出力の場合は夜も稼働
忙しい時期になると、3Dプリンター8台がフル稼働になる場合もあります。







環境整備
左:3次元スキャナー使用中 右:レーザーカッター使用中
また、3次元スキャナーやレーザーカッターも整備しています。
学生達が「やりたい!」と思ったことがチャレンジできる環境作りを進めています。



ACSP:

環境整備
リーダーミーティング風景(2024年10月)
これほどの施設があると、できるだけ活用してほしいと思い、つい学生に多くの指示を出してしまいがちですが、ラボについてはあくまで学生の自主性に任せているのですね。しかし、先生方もお忙しい中、放課後を含めて学生のフォローを行うのはご負担ではありませんか?

稲吉先生: ラボでは、けがや事故のリスクがあるため、指導やフォローはしっかりと行っています。 また、ラボ内では学年の垣根がなく、2年生が1年生を自然にフォローしたり、相談に乗ったりする場面が多く見られます。このような関係性が、学生のコミュニケーション能力の育成につながり、社会に出た際に必要なチームで働く力を養うことにも役立っています。

ACSP: なるほど。稲吉先生のお話を伺って、企業が参加するコンテストや国際舞台で実績を残している理由の一端が見えてきました。経済産業省が提唱している社会人基礎力「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」を高める場として、ラボはまさに理想的な環境ですね。ラボを活用することで、日常的に貴重な経験を積むことができます。 こうした環境が整っていることに加え、それを積極的に活用する学生の意欲と日々の努力が、これだけの実績につながっているのですね。

環境整備国際コンテスト PROJECT OF THE YEAR 2022 3DEXPERIENCE部門で1位を獲得された作品
日本からの応募で1位は初の快挙

関連記事:全国トップレベル 資格・コンテスト実績


【学生が自ら課題を発見して解決する能力を養うための授業】

ACSP: 稲吉先生が担当されているプロダクトデザイン専攻のカリキュラム構成についてお聞かせください。

稲吉先生: プロダクトデザイン専攻のカリキュラムは、以下の内容を柱に構成されています。
■ 3次元CAD、3Dプリンター、3次元スキャナー等、最先端技術の習得
⇒ 専門学校で唯一、業界最先端の3次元CAD「CATIA 3DEXPERIENCE」を学べます。
■ スケッチ、図面、模型制作3次元スキャナー表現力の基礎学習
⇒ プロダクトデザイン分野の基礎力を身につけます。
■ アイデアを完成させる企画力と実践力の習得
⇒ アイデアを生み出し、計画し、完成させる課題を繰り返し実習します。
また、多くの授業でPBL(Project Based Learning)を取り入れており、学生が自ら課題を発見し、解決する能力を養うための授業方式を導入しています。PBLでは、チュートリアル型と実践体験型の授業を意識的に分けて取り入れています。従来のSBL(Subject Based Learning)のような全体的にみると知識や技術を段階的に学習する授業は減少しました。しかし、具体的なスキルや知識を段階的に学習する授業の場合には、SBL授業は効果的です。特に技術の基礎を固める3次元CADオペレーションの授業や検定対策では、基礎知識や筆記が重要であるため、SBL形式を採用しています。この取り組みにより、1年生が2年生レベルの作品を製作できるようになっています。


【CAD教育と資格取得への取り組みについて】

ACSP: 毎年多くの学生に受験いただき、誠にありがとうございます。3次元CAD利用技術者試験に向けての取り組みについてお聞かせください。

稲吉先生: 学生には、準1級の取得を目指してもらっています。学生の理解度によっては1級取得を目標に授業を行っています。申込期限ギリギリまでカリキュラムを調整し、学生一人ひとりの理解度を確認して受験する級を決めています。カリキュラムは、 認定会場特典の一つである御協会の3次元CAD利用技術者試験過去問題をベースに、オンライン授業や各学生が自己学習しやすいように、学校独自の3次元CAD利用技術者試験対策用eラーニングを作成しました。昨今の新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンライン授業が必然となり、この取り組みは加速しました。
学生たちはタブレットやスマホで解説動画を見ながら、実際に問題を解いていく、という学習スタイルを構築しました。解説動画は数分単位で細かく分け、見やすいように工夫しています。学生たちはわからない部分を何度も見直し、繰り返し学習することで理解度を深め、オフライン授業よりも積極的に質問する学生が増えました。また、eラーニングを導入することで各学生の進捗や理解度が可視化され、個別フォローがしやすくなり、大変効果的でした。

資格取得


【資格取得に向けてのアプローチ】

ACSP: 資格取得に向けて、中にはあまり積極的でない学生もいるかと思います。そうした場合、稲吉先生はどのようにアプローチされていますか?

稲吉先生: 資格取得の意義については、身近でイメージしやすい例を用いて説明しています。わかりやすい例として、運転免許証があります。
たとえば、あなたがある乗り物に乗るときを想像してください。そこには2台の乗り物があり、どちらの運転手も自分の運転技術に自信を持っています。しかし、一人は運転免許(資格)を持っていて、もう一人は持っていません。あなたが安心して乗る運転手は、どちらでしょうか?
当然、あなたが選ぶのは運転免許(資格)を持っている運転手ですよね?資格とは、他者に自分の知識や能力を明確に伝えるものです。資格とはそういったものであると説明しています。

ACSP: 学生の皆さんが「商品開発の現場で、デザインや設計など多方面で活躍できる人材」となるための一歩として、CAD利用技術者試験を重要な資格と位置づけていただき、改めて感謝申し上げます。


【こぼれ話】

ラボのお話の中で、稲吉先生がある学生さんが制作した机について触れてくださいました。その机は現在、ラボ室で稲吉先生が実際に使用しているとのことです。

こぼれ話
プロダクトデザイン展示会に作品として展示し、その後、4月からはラボ室で使用中

こぼれ話
普段、稲吉先生が使われている様子を撮影させていただきました。
稲吉先生:大事に使用しています。
稲吉先生は「学生がせっかく作った机だから使っているのですが、少しがたつくんです」とおっしゃっていました。その言葉にはわずかな不満がありつつも、どこか嬉しそうな様子が伺えました。机のわずかな不具合が、稲吉先生にとっては学生との心温まる思い出となっているようです。




今回はお忙しい中、お時間をいただき、心から感謝申し上げます。