ACSP 一般社団法人コンピュータ教育振興協会

学校訪問レポート

vol.1 日本工学院専門学校

2019.12.26

1947年の創立以来、22万人以上の人材を送り出してきた日本工学院専門学校。IT、テクノロジーのみならず、デザインやスポーツといった分野まで幅広くコースを提供している。同校のテクノロジーカレッジ機械設計科では、CADを使った実践的なものづくりのカリキュラムを提供し、そこで学んだ多くの卒業生がものづくり企業で活躍している。

同校では、いったい、どんなことをどんなふうに学んでいるのだろうか?
同校機械設計科の板倉先生、岡崎先生と、「子どものころから飛行機や自動車を作ることが夢だった」という同科2年生の野西君に話を聞いた。


野西君
機械設計科2年 野西君

1年生はCADとものづくりの基礎知識を学びます。

機械設計科は2年間の全日制。1年生は、まずはCAD、材料の性質及びその加工、物理学、数学、機械関連の4大力学など機械設計に必要となる基礎的な技術と知識を学ぶ。

一人一台のPC環境が用意されたCAD実習室で2次元と3次元のCADを習得しつつ、そのための基礎となる数学や物理を学び、さらにヤスリや旋盤などを使った実践的な金属加工技術を同時に身に付けてゆく。教室には3Dプリンターも設置され、希望する学生は、自分がCADで設計したものを3Dプリンターで出力してみることもできる。

実は大学でも学んだことのある野西君、「大学の座学で学んだ知識は教科書の中だけだったものが、ここで授業を受けることで、その理論や公式がなぜ必要か納得することができ、身に付きました」という。専門学校の強みは、この実践力にある。

CAD実習室
CAD実習室の様子。ちょうど3次元CAD利用技術者試験過去問に取組中であった。

また1年生は、授業外ワークショップとして、おおたオープンファクトリー(大田区内の町工場公開イベント)で提供される「モノづくりたまご」のアイデア考案も行う。「モノづくりたまご」とは、同イベント開催日に参加者に販売される商品のこと。直径7㎝ほどのガチャガチャカプセルの中に納まるように、形、重さ、かけられる予算などを総合的に考慮したアイデアを出さなくてはならない。

科内の学生がアイデアを持ち寄りコンペを行い、選ばれたものを町工場にプレゼンテーション。採用されると町工場と協業して量産に向けてCADで設計をし、最終的な要件に合うと製作される仕組みだ。今までに、ペンスタンドや金属製の風鈴など様々なものが実際に製造され、イベント当日に販売されてきた。

ちなみに野西君は、「スケルトンで、ゼンマイ仕掛けで2足歩行する中の様子が見える小さな機械のおもちゃを企画、設計して3Dプリンターで試作品まで作ったのですが、残念ながら最終的には予算に合わず製造には至りませんでした」とのこと。アイデアだけでなく、デザインして設計して、材料や加工方法を考え予算までクリアして、ものは初めて生産のルートに乗るのだということを、身を以て学ぶことができる貴重な機会だ。

2年生は、テーマ決めから製作まで「学生主導で」卒業製作に取り組む

2年生は1年間を通して卒業製作に取り組む。まず「何を作るか」を決め、それをどのような機械でどう実現するかを考えて構想案をまとめ、CADで設計し、実際に製作する。今年は機械設計科の約30名の学生が2グループに分かれ、グループ毎に異なる機械の製作に取り組んでいる。

各グループはそれぞれ、リーダー(全体の取りまとめやスケジュール管理をする役目)、設計担当、加工担当に分かれ、材料の調達も自分たちで行いながらプロジェクトを進める。途中ケンカになることもあるそうだが、先生にアドバイスをもらいながら、プロジェクト達成に向けてまい進する日々だ。

野西君のグループは、「岩塩を砕き、それを小分けにしてパッケージングまでする機械」を製作中だという。野西君は設計担当。来年2月上旬の完成に向けて、現在、3Dモデルの干渉チェックや、設計した歯車の動作シミュレーションをCADで行ったり、実際に小さなパーツを作り、動作検証をしながら設計を進めているそうだ。

卒業製作の狙いは…

なかなかハードな課題となる卒業製作。学校側の狙いを機械設計科の岡崎先生に聞いた。

「本学科の卒業後は、機械設計職で業務を行うことになる学生がほとんどです。製品製造の実際の現場では、製品企画・デザインからスタートし、設計・試作、実験・解析を経て量産品の製作そして販売までを行います。機械設計に携わるエンジニアがそのすべてに関わる訳ではありませんが、製品製造の工程の概要を知っていた方が将来どのような業務を行う際にもメリットがあると考えています。

岡崎先生
岡崎先生

そこで卒業製作の授業では、製品企画・デザイン、設計・試作、実験・解析までの工程をすべての学生が経験し、卒業後の業務に役立ててもらうことを目的としています。さらに自分で考えたモノを実際に設計・製作・動作確認をして、モノづくりに対しての“達成感・充実感”を味わって欲しいと考えています。」

ものづくりの設計は「CAD」がメイン

実際の“ものづくり”の現場において具体的に“モノ”をどう作っているのかといえば、現在自動車や精密機器をはじめとした多くのメーカーが、部品の生産・製造にNC工作機械(数値制御により金属等を削ったり、穴をあけたり磨いたりする機械のこと)を使用している。NC工作機械で生産・製造できるようにするための基になる設計データを作るには、3次元CADが必要になるのだ。

板倉先生
CADデータの重要性について力説する板倉先生

「モデリングマシンにしても、3Dプリンターを使ってのものづくりにしても、まずは3次元CADによる設計したデータが重要です。また、その設計に際しては製造工程を考慮することが必要です。」と板倉先生は語っている。

CAD教育と資格

CADに重点を置いたカリキュラムを組んでいる機械設計科には、CADに習熟した学生が多い。このため、他の学科の学生からCAD設計を依頼されることもあるという。
実際の例を板倉先生に見せていただいた。

正12面体スピーカー
正12面体スピーカーとその3Dパーツ

「この正12面体スピーカーは電子・電気科の学生が卒業製作の作品として製作できないか?と教員に相談したのが最初です。外側の箱(エンクロージャ)の3次元CADによる設計作業は機械設計科1年次の段階でも行える(正12面体を作るという課題を3次元CADの授業で行っている)ということで、実際の設計は野西君が行い、そのデータを基に3Dプリンターで出力したものです。」

電子・電気科だけでなく、コンサート・イベント科から本校の文化祭で販売する、“どら焼き”、“揚げパン”に本校の公式のキャラクターである“かまトゥ”のデザインの焼印を入れたいのだが作れないか、と相談を受け製作を行ったこともある。

かまトゥ焼き印製作過程
かまトゥ焼き印製作過程

また同科では資格取得を推奨している。野西君は2次元CAD利用技術者試験2級及び1級(機械)、3次元CAD利用技術者試験2級及び準1級を2年次前期までに取得している。板倉先生は「ものづくりの仕事に必要となるCADの資格を取ることは、履歴書にも書けますし就職に役立つと考えています。また、1級を取得していると資格手当を支給していただける会社も出始めています。機械設計科ではCAD実習の中でCAD利用技術者試験問題を参考にした課題を取り入れたり、資格試験対策の授業を行い、在学中のCAD利用技術者試験資格の取得を勧めています。」と語っている。

機械設計科は、CADをしっかりと習得した上で、実際にものを製造するカリキュラムの下、学生がものづくりを学ぶことができる。 同科の卒業生は、自動車メーカー、関連部品メーカーや機器・機械メーカーなど多岐に渡る企業へ就職。車のシート、ヘッドライト、足周り、プラント、屋外遊具、生産機械、治具などの様々なものを設計し、ものづくりの現場で活躍している。

実践的なカリキュラムで確実に力をつけ、将来の仕事につなげていく日本工学院専門学校。野西君をはじめとした、熱心に楽しんで学んでいる学生さんたちと、先生方の熱意に圧倒されました。
お忙しいところ、詳しくお話を聞かせていただいてありがとうございました。