vol.1 3次元CADとものづくり
熊谷 博之 氏
富士通株式会社 産業・流通営業グループ
プリンシパル・コンサルタント(ものづくりビジネス担当)
富士通株式会社へ入社後、電子回路シミュレータ、グラフィックパッケージ、プリント板CAD、機械系CAD、日本型PDM/BOMシステムPLEMIA等の企画・開発に従事。その後、コンサルティングを通じて日本を代表する顧客からの厳しい先端要求にICT、ものづくり領域で応えながら現在に至る。
社外担務委員など(現在)
・RRI-WG1(ロボット革命イニシアティブ協議会)
・アドバイザリーボードメンバー
・産業機械サブ幹事会メンバー
・IVI 理事(Industrial Value Chain Initiative)
■ものづくりの技術革新とともに高まる3次元CADの重要性
「CADベンダーが自社で実施する『ベンダー資格』は、そのソフトウェアに特化したオペレーション能力を問うものですが、『3次元CAD利用技術者試験』はソフトウェアに依存せず、3次元空間でのものづくりの思考力を一定レベルで証明できる資格です。わが社も社員の重要な能力開発の一つとして位置づけ、その資格取得を支援しています。」
と語るのは、3次元CAD利用技術者試験の試験創設当初から社員教育の一環として受験を推奨している富士通株式会社の熊谷氏。国内外のものづくりにかかわるさまざまな取り組みに参画し、ものづくりとCADに精通した氏は、技術革新の進むものづくりの世界において、3次元CADの重要性はますます高まるという。
「製造業の世界では、ドイツ政府が推進する製造業の高度化を目指すコンセプト『インダストリー4.0』に代表される、IoTやAIを用いることによる製造業の革新が叫ばれていますが、製造業の革新がもたらす恩恵として注目されている『マスカスタマイゼーション(従来の大量生産性を保ちながら多様化する消費者のニーズに合わせた一品一様の商品づくり)』は、3次元データなくして成立しません。」
■3次元CADの活用が中小企業の強みを引き出す
日本政府は今、高付加価値な製品設計・製造を実現し、産業・地域の競争力強化を図るための「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」を進めている。2014年から5年間、2017年度だけで325億円の予算を投じた国家プロジェクトだ。このプロジェクトの目標のひとつでもある「中小企業の強みを活かし、グローバル市場で戦える力を持つこと」の実現において、3次元CADの活用が欠かせないと熊谷氏は語る。
「世代交代が急速に進む中小企業において、これまでの職人的な『勘どころ』によるものづくりから、3次元CADによる『データ』中心のものづくりへ変わっていく必要があります。幸い、テレビゲームやパソコン世代の新しい経営者たちは3次元CADに入りやすく、また3次元CADを利用する環境も高価なワークステーションからPCベースへと移行したことで、設備投資への負担も少なくなっています。」
■『創造力のイニシアティブ』で世界のものづくりをリードする
3次元CADの進化により、シミュレーションや解析の機能が手軽に利用できるようになったことも、3次元CADの普及を後押ししているという。
「3次元CADは単なる『モデリングツール』ではなく、頭の中のイメージを形にするためのツール、ものづくりを試行錯誤するためのツールとして、ますます重要になるでしょう。AIを活用した生産現場の自動化も大きな潮流ですが、いくら自動化が進んでも、『創造すること』は人間にしかできません。日本のものづくりが世界で競争力を高めるためには、『創造力のイニシアティブ』が必要なのです。」
熊谷氏は、こうした次世代のものづくりにかかわる学生や、3次元でものづくりに取り組む個人にも、3次元CAD利用技術者試験の受験を勧めたいと語る。
「この試験は、3次元によるものづくりの知識や技術が、広範囲に盛り込まれています。資格取得を目的とすることも大切ですが、個人的な楽しみや自己実現など、もっと広い目的で受験してもらえるようになるといいですね。」